天文学者の最も重要な仕事は、論文を書いて世界に研究成果を報告することです。多くの天文学者はarXiv(アーカイヴ)と呼ばれるウェブサイトに自身の論文をアップロードすることで、世界中に研究成果を公開します。このウェブサイトに公開された論文は世界中の研究者が無料で読むことができます。天文学・天体物理学の分野では、毎日50件程度の新しい論文が新しく発表されます。
実はarXivに公開された論文は何年何月何日何時何分に投稿されたのかの記録が残ります。このシステムを利用して、この記事では2021年12月25日(土)に発表された論文を紹介しようと思います!
今回私が調べた範囲はarXivに投稿された論文のうち「Astrophysics」に分類され、協定世界時(UTC)Sat, 25 Dec 2021に投稿された論文です。
1本目
一本目は、インドから発表されたこちらの論文 https://arxiv.org/abs/2112.13242 筆頭著者は、インド・アーメダバードにある「Physical Research Laboratory」に所属するBijoy Dalalさん。投稿時刻はUTC14時、インド標準時ではクリスマスの20時となります。
タイトルは「Differential behaviors of suprathermal 4He and Fe populations in the interplanetary medium during solar cycle 24」。これは、太陽サイクルと惑星間物質に存在する超熱的プラズマの性質の関係に関する論文らしいです。
太陽から地球にやってくるエネルギーは11年間の周期で変化していることが黒点の観測から知られています。2019年12月に太陽は第25活動周期に突入していて、現在も大型のフレアの発生等が続いています。
この論文では一つ前の24活動周期のデータを解析して、惑星間物質と太陽周期の関係の解明の取り組んでいます。内容はさっぱりわかりませんが、太陽活動は地球の環境にも影響します。そもそも、太陽の研究が始まって以来「何故11年なのか」については謎のままで、太陽物理学最古の謎と呼ばれています。皆さんも、ぜひこの謎に取り組んでみてはどうでしょうか。
2本目
二本目は、中国から発表されたこちらの論文 https://arxiv.org/abs/2112.13252 筆頭著者は、武漢大学のChao Yangさん。投稿時刻はUTC15時50分、中国標準時ではクリスマスの23時50分となります。ギリギリクリスマスの夜ですね。タイトルは「Yaw attitudes for BDS-3 IGSO and MEO satellites: estimation, validation and modeling with inter-satellite link observations」
この論文は、China Academy of Space Technology (CAST) /中国空間技術研究院が開発したBeidou satellite navigation system (BDS-3)/北斗衛星導航系統と呼ばれる衛星の姿勢に関する研究がまとめられています。このような内容の論文が公開されているのは少し意外でした。もちろん、天文学関連の衛星開発の論文は公開されるのですが、ざっと調べた感じ、BDS-3はGPS関連の衛星ですね。
詳しくは全く理解できなかったのですが、天文学研究に使う方法とかを調査しているんでしょうか。この手の研究は、実は公開されないことが多いです。というのも、天文衛星等の技術は軍事利用とかに応用される可能性があるからです。日本天文学会でも、「安全保障と天文学」ということが常に議論されています。興味がある方は、こちらの記事を読んでみてくださいね。 https://asj.or.jp/geppou/archive_open/2019_112_09/112-9_650.pdf…
3本目
三本目は、カナダから発表されたこちらの論文。 https://arxiv.org/abs/2112.13276
筆頭著者は、Raderon Labという研究所のAtila Poroさん。投稿された時間はUTC19時、カナダ・ブリティッシュコロンビア州では午前11時ですね。タイトルは「Investigation of the Orbital Period and Mass Relations for W UMa-type Contact Systems」
こちらは、連星の軌道周期とその他のパラメーターの関係を調査した論文です。天の川の詳細な三次元図を作ることを目的としてヨーロッパ宇宙機関が打ち上げた天文観測衛星・ガイアのデータを用いています。このように、ガイアのデータは基本的に全世界に公開されます。データの使い方さえ分かってしまえば、世界中どこでも研究できますね。
特に興味深かったのは、著者が所属しているのは人工知能の研究所天文学部門である点です。今は、人工知能や機械学習は天文学・宇宙物理学の研究においても非常に重要な役割を果たしています。天文学の研究室は「物理学科」に所属することことが一般的です。一方で、今は人工知能分野のなかで天文学が発展する時代になっていると感じます。分野を超えて、天文学研究がどんどん広まっていくことを期待しています。
まとめ
さて、2021年のクリスマスに発表されたのは、この3本でした。少なくて安心しました。多くの天文学者はクリスマスは休んでいると思います!(日本では、クリスマスに研究会が行われているなんてこともありますが笑)
この記事を書いてみて、自分の研究分野と全く関係ない論文に着目するのも新たな発見があって良いなと思いました。こういった遊びから何かアイデアが湧いてくることもあるんじゃないでしょうか。今年もどんな論文がクリスマスに発表されるのか楽しみですね〜。Happy Merry Christmas!
執筆者紹介
執筆:みちなり
某大阪にある大学で銀河やブラックホールの研究をしている。宇宙で一番可愛いのは百田夏菜子(自明なので証明する必要なし)
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