大自然の中に目を向けると、ときに思わぬ芸術に出会うことがある。
それは、触れれば一瞬にして溶けてしまう雪の結晶であったり、めったにお目にかかれない虹であったり、道端で見かけた野良猫の模様など様々だ。人が作り出す芸術品に負けないくらい、自然が織りなす芸術は美しい。その中でも特に私を魅了したのは宇宙を悠然と泳ぐ銀河たちだ。
彼らは同じ場所にただ留まるわけではない、絶えず宇宙を旅しているのだ。その旅の中で彼らは出会う。それは偶然ではなく必然に近い。何故なら彼らは凄まじい重力をもっているため、ひかれあってしまうのだ。この広大な宇宙で幾ばくもない大きさの銀河同士が出会うとは、なんてロマンティックなことであろうか。
そこで今回はこの銀河の出会いについて少しだけ語らせていただきたい。
銀河同士の出会い、すなわち、近くを通り過ぎたり衝突したりすることは銀河の人生にとってそこまで特別なことではない。彼らの人生で一回はあるとされており、銀河が衝突した場合はおよそ10億年かけて一つになると推定されている。そういわれると、そこまで珍しいことでもないのでは?とお思いになるかもしれない。しかし、よく考えてみてほしい。私たち人間の人生なんて100年そこらだ。それは、彼らからしてみれば人が食べ物を口に運ぶ瞬間、スマホで時間を確認する瞬間、恋に落ちる瞬間ほど一瞬なのかもしれない。そんな”一瞬”の間に私たち人間がお目にかかれるとはなんと光栄なことであろうか。
さて、彼らは人間の私が感動していることは露知らず、互いの重力によってすれ違い、時にはすれ違いを経て衝突し、一つになることもある。銀河同士が近付いたり衝突したりする際に恒星がいくつも生まれることが知られており、この星の誕生というのが銀河の進化の基本となっている。つまり、銀河の出会いは彼ら自身の進化に大きく影響しており、それ無視では銀河進化を語れないのだ。このように互いに影響し合っているように見える銀河のことを”相互作用銀河”という。
私は、この相互作用銀河にどうしても人間の営みを重ねてしまう。人と人が出会い、ときにすれ違い、ときに衝突しながらそのかかわりの中で少しずつ成長していくのと同じように感じないだろうか。まるでドラマティックな部分を切り取って見ているかのようにも思えるのだ。
さらに、相互作用銀河には1つとして同じような形のものはなく、それぞれに個性があるのも魅力の一つだ。特にその個性を強めているのは相互作用銀河に特徴的なブリッジ構造とテイル構造だ。ブリッジ構造とは星やガスが相手の重力によって引き寄せられることで、銀河と銀河の間にできる橋のように見える構造だ。テイル構造は潮汐力によって両銀河から離れる方向にできる紐状の構造である。この二つの構造は巨大な天体が衝突するということがいかにダイナミックなことなのかを物語っている。
まさに、相互作用銀河は”宇宙最大の芸術”と言えるだろう。この芸術品が今後何億年もかけてさらに変化していくと思うと、その様子を見られないことが非常にもどかしい。だからこそ、生きている今のうちにしっかりと見ておきたいと思う。
このコラムを読んでいただいたあなたに、この記事を通して相互作用銀河の魅力が少しでも伝わったなら幸いである。興味が湧いた方は是非この機会に色々な相互作用銀河を調べて見ていただきたい。きっとお気に入りの相互作用銀河が見つかるはずだ。
執筆者紹介
執筆:ひびきち
Twitter:@cosmo_hibiki
URL:https://gamusharacosmogirlhibiki.wordpress.com/profile/
この記事はAstro Advent Calendar 2021の企画記事です。
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