【Astro Advent Calendar12/19】遥か遠い惑星の息って何?前編(おさむ)

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「遥か遠い惑星の息」とは何なのか、前後編の2回に分けて考察します。
前編である今回は天文学的な観点からアプローチを行います。

Q. 「遥か遠い惑星の息」が何なのかわからない、わかります

A. 「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」のメインキャスト9人によるユニット、スタァライト九九組の楽曲「再生讃美曲」の歌詞の一節です。

太古の土 金に染める稲穂の群れ
鳥のように らんと鳴く竪琴
星夜に降る 大粒の粉雪になり
海の底に しんと眠る真珠となる
そう 遥か遠い惑星[ホシ]の息
それらすべて私

作詞:中村彼方、作曲:佐藤純一(fhána)、歌唱:スタァライト九九組 「再生讃美曲」より引用

(この記事は趣味全開にお届けします。スタァライトはいいぞ123。)

しかし歌詞を見てください。とても詩的で神秘的でいいですよね……!

ルビの通り、惑星はホシと読ませます。リリックビデオも貼っておきます。

「少女☆歌劇 レヴュースタァライト ロンド・ロンド・ロンド」主題歌「再生讃美曲」(movie ver.)リリックビデオ
当該パートを歌っているのは私の推しである岩田陽葵さん(役:露崎まひる)です。イラストもかわいい!(強調)
ちなみに本楽曲は令和2年アニソン大賞「編曲賞」の受賞作でもあります。45

あまりにも壮大……。

「遥か遠い惑星の息」はフレーズ通りに、宇宙空間に放り出されたような浮遊感があります。

私はこの、「遥か遠い惑星の息」とはなんなのか、わかりたいのです。
太陽系外という遥か遠い惑星[ホシ]を修めてきた者6として、そしてスタァライトのオタクとして、この知的欲求を満たさずにはいられません。

それが本記事の動機です。

惑星の「息」?

惑星はもちろん息をしません。比喩表現だとして、「息」が何を示すのか考えていきます。

まず「息」とは何か検索すると、以下のように説明されています:

①口や鼻から呼吸する空気。呼気または吸気、特に呼気をさす。また、呼吸作用。万葉集15「霧立たば吾が立ち嘆く―と知りませ」。「―を吹きかける」「―を切らせる」
②勢い。気配けはい。〈類聚名義抄〉
③(二人以上の者がいっしょに一つの事を行う場合の)呼吸。調子。
④音声学上、声帯の振動を伴わない呼気。↔声こえ
⑤芸道の深い要領。
⑥茶などのかおり。

広辞苑無料検索 広辞苑「いき【息】」より引用

(1)口や鼻から吐く呼気や吸う吸気。「―を吐く」
(2)呼吸運動。「―が絶える」「―がとまる」
(3)元気。活気。勢い。「―を吹き返す」
(4)組になって仕事をするときの,仕事をうまく運ぶための調子やリズム。「―が合わない」
(5)茶などのかおり。
(6)いのち。「人妻児ろを―に我がする/万葉 3539」

広辞苑無料検索 大辞林「いき【息】」より引用

この中から惑星の現象として解釈しやすそうな概念は以下の4つでしょうか。

  • 吐く空気
  • 呼吸作用
  • 二人が合わせる「息」
  • いのち

「遥か遠い惑星[ホシ]」の元研究者が、それぞれの意味で「息」をアプローチしていきます。

惑星の「吐く息」

惑星は孤立したものと見られがちですが、宇宙空間と物質の「やり取り」をしています。
もっとも馴染みあるものは流星で、惑星間空間を漂うチリが惑星大気に突入したときに発光する現象です。

一方で、惑星から物質が出ていく現象もあります。

大気散逸は、太陽風やその他の要因によって惑星大気がはぎ取られ宇宙空間へと失われる現象です。大気散逸によって、地球は毎秒3キログラム(!)もの水素を宇宙空間に失っているそうです7

この現象は「遥か遠い」太陽系外惑星でも数多く観測されています。2003年には有名なHD209458bで、惑星から尾を引くように水素原子が流出していることが報告されました8

惑星からの大気散逸は、まさに惑星の「吐く息」といえるのではないでしょうか。

惑星の「呼吸」
9

地表面を擬人化すると、「呼吸」という過程は「炭素循環」に似ているなと感じました。

地球の大気は、二次大気と呼ばれる成分で構成されています。二次大気とは「地球が生まれた時から存在する成分(一次大気10)」ではなく、長い年月をかけて岩石中から滲み出してきた(二次だけに)気体のことです。二酸化炭素や窒素、水蒸気はこの二次大気にあたります。

とくに大気中の二酸化炭素は、「呼吸をする」ように地表面と行ったり来たりを続けています。最近では地球温暖化で話題になるように「人類の産業活動による排出」「植物による吸収」が注目されますが、46億年規模の歴史では地球そのものによるCO2排出・吸収の話題に触れざるをえません。

惑星が「息(CO2)を吐く」過程は、主に火山活動による排出です。マグマの成分には水蒸気と二酸化炭素が含まれており、地殻から大気中に放出されます。

惑星が「息(CO2)を吸う」過程は、主に海洋によるCO2吸収が挙げられます。CO2は水に溶けやすい気体なので結構な量が溶け込んでいます。すると海洋中のミネラルと反応して炭酸塩となり、再び地殻の一部へと帰っていきます。11

太陽系外惑星で「呼吸」をしている様子はまだ観測されていません12が、海と二酸化炭素があれば呼吸はできるはずです。海が存在すると期待される惑星は数多く発見されています13。また、水惑星学なる学問分野も確立されつつあります。

惑星たちが合わせる「息」

これは言わずもがな軌道共鳴でしょう!

複数の惑星の公転周期が共鳴し、系を安定に保つ効果です。

太陽系内では海王星-冥王星の2:3共鳴、太陽系外ではTRAPPIST-1系の7惑星による共鳴が有名なところです。

重力的に「惑星の息が合っている」現象です。

惑星の「いのち」

みなさんはどういうときに「生きている実感」を感じますか?

苦しい時、嬉しい時、走って心拍が上がり息が上がった時、さまざまだと思います。

惑星の「生きている、いのちがある」ことってなかなか捉えづらい概念ですが、私から2つ提案してみたいと思います。

  • 生まれたばかりで熱く燃えている惑星:観測例)HR 8799b, c, d, e など。直接撮像法で得られた画像は目を見張ります。
  • 自転公転によって息をするように明るさが変わる惑星:おそらく未検出14

先行研究を調べる

以上では徒然に「惑星の息ってなんだろう?」と妄想してまいりました。

次はADSに頼って先行研究を探してみます。

abs:”planet”, “breath”」で検索すると28件見つかりました。28件のうち24件はテーマから遠かったので先にざっと紹介します。

  • 12件:定型の表現(息をのむような、一息つく、など)
  • 1件:望遠鏡がある標高の高い地域で息が上がる
  • 2件:人間が塵や有毒ガスを吸い込む(breath)
  • 7件:その他、人間や生物の呼吸の話(2個:気体のスペクトル分析、2個:月で酸素を作る、2個:過酷な環境下での心肺機能、1個:ハワイのイモムシ(???))
  • 2件:breadthの誤植

続いて、天文学的な「息」の話は以下の4件でした。

「惑星」「息」が並ぶ詩的表現は論文と相性が悪いのか、Natureの見出しや会議発表が多かった印象です。また化学系のスペクトル分析論文において「この結果や手法は呼気分析や惑星大気モデリングに使える」と締めくくるものが複数あったことも、分野外の人間としては印象的でした。

あと、breadthの誤植だったのですが小惑星の光度曲線の理論研究の論文が気になりました。「小惑星の見かけのサイズ(breadth)の関数としてモデリングする」を誤植されていたため「明るさの変動をbreathと呼んでる」のかと思ってしまいました。まさに上述の「息をするように明るさが変わる惑星」じゃん…と。ま、自分で生み出せばいっか。

次回、歌詞を読む

後編では「スタァライトのオタク」としてアプローチしていきます。また明日!

 →遥か遠い惑星の息って何?後編

参考文献

スタァライト九九組「再生讃美曲」、PCCG-01914
少女☆歌劇レヴュースタァライト公式YouTube「スタァライトチャンネル」
広辞苑無料検索
Aqua planetology
NASA/ADS

執筆者紹介

執筆:おさむ

Twitter:@036Rmsna

URL:https://einstein-cross.com/

この記事はAstro Advent Calendar 2021の企画記事です。

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