(スタァライトアドベントカレンダーではなく天文アドベントカレンダーの記事です!)
スタァライト九九組「再生讃美曲」の歌詞にある「遥か遠い惑星[ホシ]の息」とは何なのか、2回に分けて考察を進めます。今回は後編です。
前編はこちら→【Astro Advent Calendar12/19】遥か遠い惑星の息って何?前編(おさむ)
歌詞を読む
前編では天文学的な観点から考察をしました。
後編では「スタァライトのオタク」として、アプローチしていきます。
構成する段落から
太古の土 金に染める稲穂の群れ
作詞:中村彼方、作曲:佐藤純一(fhána)、歌唱:スタァライト九九組 「再生讃美曲」より引用
鳥のように らんと鳴く竪琴
星夜に降る 大粒の粉雪になり
海の底に しんと眠る真珠となる
そう 遥か遠い惑星[ホシ]の息
それらすべて私
「稲穂の群れ」「竪琴」……と列挙されていき、最後に「それらすべて私」と締めくくられています。天地万象を包み込んでしまうような「私」という存在に、些か畏怖さえ覚えます。
比喩表現にも注目です。「金に染める」「鳥のように」「鳴く竪琴」「しんと眠る真珠」……直喩、隠喩、名前もわからないような技法がちりばめられています。しかしどれも情景が目に浮かぶようではありませんか?それに対して……「惑星[ホシ]の息」!?どういう喩え?という気持ちになります。
文章の構造としては、手前で「そう」と一息ついているので(惑星の息だけに)、列挙の一要素とは捉えにくいです。むしろ「私」とともに列挙を総括する役割があるように思います。
つまり、稲穂の群れも竪琴も、粉雪も真珠も「この惑星の上で起こった小さな出来事の数々(= 息)」だと解釈できるのではないでしょうか。すると「私」とは、「母なる地球」そのものと重ね合わせることができそうです。この歌唱パートを、お母さん的ポジションのキャラクター “大場なな”1 役を演じる小泉萌香さんが担当されていることも主張を支持します。
すると疑問が出てきます。「地球は、遥か遠くないよね?」と。
地球は、遥か遠くはない
さてさて、視野を広げて別の箇所を読んでみましょう。
あまりに遥か遠い星を
作詞:中村彼方、作曲:佐藤純一(fhána)、歌唱:スタァライト九九組 「再生讃美曲」より引用
目指して裸足で
硝子の上を歩くかのよう
こちらは当て字でない「星」ですね。
レヴュースタァライトでは「星」というモチーフが頻出します。歌劇舞台の中央で輝く「トップスタァ」を目指して、歌って踊って “奪い合う” 女の子達の物語であり(ここまで説明していませんでした)、「星を掴む」「星を積む」といった表現で彼女達の努力を美しく描きあげます。
あの星を掴むのはだあれ?
作詞:中村彼方、作曲:本多友紀(Arte Refact)、歌唱:スタァライト九九組 「星のダイアローグ」より引用
塔の頂上で
こちらがTVアニメオープニング曲「星のダイアローグ」…… いや待ってください、OP映像より先にアニメ1話を見ていただいた方がいいですね!
……おっといけない!押し売りをしてしまいました(推しだけに)。話を元に戻しましょう。
舞台少女が目指す「星」は、「自ら輝きを放つ星」つまり恒星がモチーフといえます。
したがって、光を浴びて輝く「惑星[ホシ]」と「星」を同列に考察することは難しそうです。
“近くて、遠い”
「遠い惑星」とは何なのか?記憶を辿ると、ある一節を思い出しました。
This is a story of a nearby and distant planet, It is an
TVアニメ「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」9話より、戯曲本「STARLIGHT GATHERER」の一節を引用
epic of ancient times, a drama of the far future.
ここで言うstoryとは彼女達が学園生活3年間をかけて演じ上げる「戯曲スタァライト」の物語を、planetは物語の舞台を指します。
nearbyとdistant、二つの矛盾した形容詞でplanetを説明するという修辞技法が使われています。続く文章にもancientとfar futureが対立しています2, 3。
矛盾した形容詞の効果によって、これは「地球のようだけれど地球じゃない、いつのことかもわからない、空想の世界」であることを印象付けているように感じられます。物語の舞台がどこか現実に存在して欲しいという願いに、肯定も否定もしない答えが「近くて遠い」なのでしょう。
「スタァライト」──それは遠い星の、ずっと昔の、遙か未来のお話。
劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト INTRODUCTIONより引用
のように、「nearby」に当たる表現と「惑」を落として翻訳されています。
同じように、「遥か遠い惑星[ホシ]」とはまさに「a nearby and distant planet」のことではないでしょうか。
したがって「遥か遠い惑星[ホシ]」とは、太陽系外や銀河の彼方ではなく、あなたの近くであり遠い場所のことのようです。
遥か遠い惑星[ホシ]の息
「遥か遠い」には「近くて遠い、幻想的な」惑星のことが想起されました。
「稲穂の群れ」「竪琴」「粉雪」「真珠」が「惑星[ホシ]の息」の数々です。
息と喩えたのは、これら美しい情景が「命溢れる惑星[ホシ] = 地球」のちいさな出来事だからでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
「遥か遠い惑星[ホシ]の息」を2つの観点、「太陽系外惑星の元研究者」「スタァライトのオタク」の両面で考察を行いました。
前者では「息」から想起される惑星の現象を紹介し、また先行研究のサーベイも行いました。
後者では歌詞を読み込み、スタァライトにおける「星」「惑星」の概念を交えつつ、一定の結論を導きました。(実は執筆のつもりがなかったのですが、想像以上に話が膨らんでしまいました。)
これで「遥か遠い惑星の息、わかります」になれましたね!
天文学的にも想像がふくらみ、コンテンツとしても深い「レヴュースタァライト」に是非興味を持っていただけたらと思います。ありがとうございました。
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参考文献
スタァライト九九組「再生讃美曲」、PCCG-01914
少女☆歌劇レヴュースタァライト公式YouTube「スタァライトチャンネル」
スタァライト九九組「星のダイアローグ」、PCCG-70432
「少女☆歌劇レヴュースタァライト」アニメBlu-ray BOX 3、OVXN-0043
「劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト」HP
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執筆者紹介
執筆:おさむ
Twitter:@036Rmsna
URL:https://einstein-cross.com/
この記事はAstro Advent Calendar 2021の企画記事です。
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