漫画雑誌『まんがタイムきららキャラット』にて連載されているQuro氏の作品『恋する小惑星(アステロイド)』(以下、『恋アス』と表記)は、2人の少女が「小惑星を見つける」という幼い頃の約束を目標に、天文部と地質研究会が合併した「地学部」に入部して高校生活を過ごすという日常系の漫画である。
この作品が2020年1月から3月に渡ってアニメ化され、特に星空や天文機材の細かい描写が天文ファンの間で話題を呼んだ。その緻密な描写には、国内で名の知れた天文雑誌『星ナビ』も注目するほどである。
そんな天文描写にも熱意がこもったアニメ版『恋アス』に、英語版があるのはご存知だろうか?筆者は今年(2021年)の3月にアニメ版『恋アス』の英語版円盤(英語タイトルは漫画版と同じく『Asteroid in Love』)を購入したので、そのレビューを軽くしていきたいと思う。
まずは円盤について紹介しよう。筆者が買った北米版のBlu-rayディスク(Funimation製)は2枚入りであり、1枚目に第1〜8話、2枚目に第9〜12話と国内版で収録されていた特典映像(と4Kタイムラプス)が収録されている。
値段は約7000円であり、Amazonなどで購入できる。北米Blu-rayのリージョンコードはAとBであり、日本のコード(A)にも対応しているように見えるが、それとは別に日本など一部の地域では再生できない、通称「国コードロック」と呼ばれる制限がかかっている。そのため、日本で販売されている通常のBlu-rayプレイヤーでは再生できない場合がほとんどである。ただし、「国コードロック」に対応しているプレイヤーや、デフォルト設定のPS3/PS4/PS5だと、再生が可能である。言語対応について、日本語音声と英語音声(本編のみ)、消すことが可能な英語字幕が対応されている。
北米版円盤の外装。
Blu-rayディスク。2枚でコンパクト。
外装はリバーシブル。
その中でも、筆者は(英語が得意ではないのに)英語音声で『恋アス』を楽しんでいる。どのキャラクターも性格に適った声と演技をしているので、それが例えオリジナルである日本語版の声と違ったとしても、違和感を覚えない。ここで、メインキャラ5名の英語音声がどんな声をしているのか、人物紹介がてら主観的に綴っていこう。
・木ノ幡みら(通称、みら)
とある変光星の名を持つ、橙色の髪をした「恋アス」の主人公。第1話時点で高校1年生。幼い頃の約束を境に天文に興味を持つ。天真爛漫でフットワークが軽い。元気発剌な性格に合った可愛らしい高音ボイスは英語版も日本語版も変わらないが、英語版の方がやや丸っこい声である。
・真中あお(通称、あお)
文字通り青髪のツインテールをした、みらのかけがえのない友人。第1話時点で高校1年生。みらと初めて出会う以前から天文に興味がある。引っ込み思案ではあるが、月日が経つにつれて積極的な性格へと成長する。幼い頃ボーイッシュな見た目であったからか、英語版の声は日本語版のものより低く、男の子っぽさの名残があるハスキーな声となっている。
・猪瀬舞 (通称、イノ)
桜(後述紹介)を尊敬している、ブロンズヘアの先輩。第1話時点で高校2年生。地図好きに乗じて、かつての地質研究会に入部し、地質にも興味を持った。あどけない仕草を良く見せる一方で、人の心情を伺うといった洞察力のある場面も。英語版も日本語版もそのあどけなさを思わせる可愛らしい声をしているが、英語版の声の方が若干高め。
・ 桜井美景(通称、桜)
イノが慕う、クールな風貌をした赤髪の副部長。第1話時点で高校3年生。鉱物に目がない。厳しい言動を振る舞うが、本人は普通に接しているつもりで悪気があるわけではない。ぶっきらぼうな雰囲気に反映してか、英語版の声は日本語のものよりも低く、より淡々とした声で演じている。
・ 森野真理(通称、モンロー)
桜にとって大切な友人となる、月が好きな灰色の髪の部長。第1話時点で高校3年生。マイペースでおっとりとした性格をしているが、宇宙飛行士になるという夢・目標を掲げている。桜と同じく、英語版の声は日本語のものよりも低いが、息を混ぜた発声でほんわかキャラを表現している。
また、英語音声では、日本語音声で言った台詞と若干異なる台詞を言い放つことがある。例えば第6話で太陽系の模型を作成したシーンの台詞をピックアップしてみよう。
日本語台詞
みら 「モンロー先輩が太陽系で好きな星って何ですか?」
モンロー「ん〜一番は月かな?」
あお 「扱いは愛の差…」
英語字幕
Mira “What’s your favorite planet in the solar system, Monroe-senpai?”
Monroe “Hmm… My number-one would be the moon.”
Ao “So it’s more detailed because she likes it more”
英語吹替
Mira “Hey Monroe, what would you say is your favorite planet in the solar system?”
Monroe “Hmm… I think my favorite is the moon”
Ao “That’s not really a planet…”
吹替和訳
みら 「モンロー先輩が太陽系で好きな惑星って何ですか?」
モンロー「ん〜月が好きかな?」
あお 「それ惑星じゃない…」
太陽系の模型を作る際、月好きゆえに、モンローは月の模型を他の惑星のものより細かく作っていた。日本語台詞と英語字幕でのあおの反応は、そういうことだったのかという反応を示している。一方、英語吹替では、惑星でなく、衛星である月を答えたモンローに、あおがつっこむ流れになっている。こういった些細な変更はちょくちょくあり、そういった違いを聞くのも、英語版で観る時の醍醐味である。さらに、下記のような粋な変更もある。第4話の中の、「きら星チャレンジ」という研究体験講座を知った時のみらとあおの会話だ。
日本語台詞
あお 「でもちょっとだけ、1歩、2歩くらい進んだ気がする」
みら 「だね。もしかしたら、大ジャンプかもだよ」
英語字幕
Ao “I still feel like we’re a step or two closer to our goal”
Mira “Yeah. This might be a huge leap forward for us”
英語吹替
Ao “But, despite that, our goal feels closer”
Mira “You’re right. One small step, or even one giant leap.”
吹替和訳
あお 「それでも、目標に近づいているかも」
みら 「だね。小さな一歩、いや、大きな飛躍かも」
英語吹替だと、月面に初着陸したアームストロング船長の名言「That’s one small step for a man, one giant leap for mankind」の一部を拝借しているのだ。「小惑星を見つける」という2人の夢に近づいたこのシーンに月が映っていたからかもしれない
『恋アス』英語版で観るメリットとしては、地学用語(筆者にとっては特に天文用語)の英語表現を学ぶことであろう。特に英語吹替で思い返したのは、有名な恒星名の英語発音が日本人が馴染んでいる言い方と異なるところである。ここで、恋アニメ版『恋アス』で出てきた恒星の英語発音を挙げておこう。
天体名 [英字] (英語発音カナ表記)
スピカ [Spica] (スパイカ)
ミザール [Mizar] (マイザー)
アルゴル [Algol] (アルコー)
シリウス [Sirius] (シリアス)
リゲル [Rigel] (ライジェル)
アルデバラン [Aldebaran] (アルデバラン)
カペラ [Capella] (カペラ)
ポルックス [Pollux] (ポラックス)
プロキオン [Procyon] (プロシオン)
ベテルギウス [Betelgeuse] (ビーテルジウス)
『恋アス』英語版を全体的にみた感想としては、英語版の声優さんも、日本語版の声優さんに劣らないくらいに、しっかりと演技をしているので、日本語版で観たときとほぼ同じ視聴経験を体感することができた。また、上に挙げたような、セリフの微妙な変更や、地学(天文や地質)の英語表現に触れるといった楽しみを味わうことができた。
締め切り直前に作成したので、レビューと言えるかどうかは微妙だが、これをきっかけに、恋アスの英語版に興味をいただけると、大変嬉しく思う。(そして、自分が天文屋と言うのもあり、地質関係についてピックアップしなかったこと、それに伴い、イノと桜の台詞を挙げなかったことをお詫び申し上げる)
参考文献
執筆者紹介
執筆:のり
都内の某大学で天文学の研究をしているへっぽこポスドク。
専門分野は系外惑星。観測による惑星軌道の調査をのんびりしている。
日本アニメを英語音声で観たり、アクアマリンの曲を聴いたりするのが至福のとき。
この記事はAstro Advent Calendar 2021の企画記事です。
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