【Astro Advent Calender2022 12/9】地球にとっての「サンタさん」は誰!?(Üdai)

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皆さんにとって、クリスマスの一番の楽しみと言えば何だろうか?

20歳を超えてからというもの、筆者にとっての楽しみは、いつもよりもちょっと豪華な食事、クリスマスケーキ、そして忘年会ラッシュ……と食べ物ばかりになってしまった。しかし、そんな筆者にも、サンタさんからのクリスマスプレゼントに心を躍らせている時期があった。皆さんの中にも、12月24日の夜、「今年はサンタさんは何をプレゼントしてくれるだろうか」と心躍らせた経験のある方が多いだろう。中には、毎年決まって24日の夜に自分の枕元にプレゼントを置いていってくれるサンタさんの正体に興味を持った方もいるかもしれない。どうやって、煙突も無くセキュリティもバッチリの家に入ってこられたのか?どうして、毎年自分の欲しい物を的確に当てられるのか?なぜ、「サンタさんをこの目で見てやる!」と意気込んでも必ず寝落ちした瞬間に来てしまうのか?などと疑問点を整理しながら、サンタさんの正体について自分なりの答えを出した方もいるのではないだろうか。

サンタさんの正体は…?

惑星科学の「サンタさん」

さて、惑星科学の世界にも多くの研究者たちが長年にわたってその正体を追い続けている「サンタさん」がいる。そのサンタさんとは、約40億年前に地球に水をプレゼントしてくれた主である。

現在の地球は大気が豊富に存在し、適度な気温・適度な大気圧に保たれているため、水が豊富に存在できる。しかし、今でこそ当たり前のように身の回りに存在している水も、実は40億年ほど前までは全く当たり前の存在ではなかった。地球は太陽からたったの1億5千万 kmしか離れておらず温度が比較的高いため、水は蒸発してしまい地球の材料となる物質の中には水や氷がほとんど含まれていなかった。従って、形成当初の地球には水がほとんど含まれていなかったのである。では、地球に水をプレゼントしてくれたサンタさんは誰なのだろうか?形成当初の地球で、そして太陽系では何が起こっていたのだろうか?

リアルサンタさんの場合と大きく異なる点は、過去に起こった現象であり、我々が生きている間にはもう二度と同じことは起こらないという点である。つまり「来年こそはサンタさんをこの目で見てやるんだ!」と意気込んでも、もうサンタさんは来ないのである。

では、どうやってサンタさんの正体に迫れば良いのか。鍵になるのはサンタさんの足跡の一部が40億年経った今でも残っていることである。サンタさんの候補として小惑星の衝突、彗星の衝突、地球上で起きた化学反応などが挙げられているが、ここからは筆者が研究対象としている彗星に絞って話を進める。

ハレー彗星
NSSDCA Photo Gallery より
(https://nssdc.gsfc.nasa.gov/photo_gallery/photogallery-comets.html)

彗星は太陽系の中でも太陽から遠い領域で形成された、水や揮発性物質を多く含む小さな天体である。本体となる固体部分(核)は大きくても数 kmしかないものの、そこから放出されるガスは数百万 km以上先まで広がる。古くはハレー彗星やヘール・ボップ彗星、最近ではネオワイズ彗星やレナード彗星など、その美しい姿は多くの人々を魅了してきた。

これらの彗星に多く含まれる水が地球の水の起源かどうかを判別するのに使われる指標が「D/H比」である。D/H比の “H” はごく普通の水素原子、 “D” は水素の同位体の重水素と呼ばれる原子のことで、この比率が地球の海水(D : H = 1 : 7,000程度)と近いものは「サンタさん」の可能性がある、と考えられている。では実際にD/H比を測定した結果はというと……地球の海水と同程度のものからD : H = 1 : 2,000程度の重水素が多めのものまで、彗星によりバラバラだったのである。化学反応の進行しやすさを考えると寒い場所でできた彗星ほどD/H比が大きくなりやすいはずなのだが、実際の彗星のD/H比の傾向はそれだけでは説明できない。

では、ほかに何が、どのように彗星のD/H比を変化させるのか?

明確な答えはまだ得られていないが、彗星の核の表面の氷の昇華過程やその後の気体水素・重水素原子の運動過程など、候補は沢山ある。これら1つ1つの過程を丁寧に議論すると同時に、彗星のD/H比の測定データを増やすことも大切である。筆者は現在、2029年打ち上げ予定のComet Interceptorミッションに向けて、まさにD/H比を測定するためのカメラを開発中である。D/H比の測定は簡単なことではないが、地球の「サンタさん」の足取りを追うための証拠集めとして重要な一手になるだろう。7年後(観測するのは約10年後)、Comet Interceptorが我々にどのようなプレゼントをもたらしてくれるのか、今から楽しみで仕方がない。

執筆者紹介

鈴木 雄大 (Üdai)

東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 博士 3 年

すいせい (水星・彗星) の大気や探査機に搭載するカメラの開発に関わる研究を行う一方で、

「惑星の探検家」として YouTube チャンネル「宇宙冒険隊」など多様な媒体で活動中!

HP: http://spaceadv.wp.xdomain.jp

Twitter: https://twitter.com/ppak_kappa

YouTube チャンネル: https://www.youtube.com/@uchuuboukentai

この記事はAstro Advent Calendar 2022の企画記事です。

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