【Astro Advent Calendar12/15】クリスマスに考える系外惑星の距離感のはなし(たこ)

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クリスマスと冬の夜空

地上の彩りが鎮まるこの季節、夜空はかえって賑やかさを増します。普段星を見ない人でも明るい星や馴染みの星座を見つけやすく、寒ささえ対策すれば、星を楽しむことや伝えることに最も相応しい季節だと思います。このころ夜更けに空がひらく方向に明るい星が多いことに加えて、湿度が低く空気が澄んでいるため星像がくっきりしますし、大気のゆらぎが星を瞬かせ華やかな印象を添えます(研究用のデータを撮る際はこのゆらぎは大敵ですが)。

また冬至が近く夜が最も長い季節ですから、夜明けまでの時間をゆっくり堪能できるのも嬉しいですね。今回はアドベントカレンダー企画ということですが、クリスマスも元は冬至祭の性質を持つといいます。衰えきった太陽が回復に向かい始める日を祝う風習を、キリスト教が取り入れてキリストの降誕を祝う日としました。

奇しくもクリスマスの夜8時頃、北西の地平線付近には十字架を思わせる星の並びが直立して見えます。はくちょう座の中心部分、北十字とも称される星の並びです。南天で有名なみなみじゅうじ座と対比してつけられた呼称のようですが、コンパクトさが魅力の南十字に比べて、こちらの北十字の方が十字架の形をイメージするにあたっては容易く感じます。適度な縦横の長さ比率と、縦横の軸が交わる場所にも目立つ星があることで、自然と十文字に結びたくなりませんか。

↑地平線に直立する北十字。趣味で撮り溜めた星景の中でクリスマスの北十字がわかりやすい図を探したがこれが精一杯だった。半分埋もれてるやん。。全体の姿はぜひご自身の目でご覧あれ!

北十字と太陽系外惑星

ところでこのはくちょう座の方向周辺には、これまで人類が見つけてきた太陽系外惑星の半数以上が存在します。ケプラー宇宙望遠鏡が2009年から4年間の集中観測で発見した惑星たちです。

ケプラーは太陽に似た星をできる限り多く、太陽光を避けながら年中継続して観測する必要があったため、それらの条件を満たすこの天域が選ばれました。ケプラー計画は大成功を収め、太陽以外の恒星の周りにも地球のような小型の惑星がごく当たり前に存在することがわかりました。現在はその後継機ともいえるTESS衛星(Transiting Exoplanet Survey Satellite)が活躍しています。

太陽系外惑星はどのくらい遠い?

太陽系外惑星は、一般に「系外惑星」と呼ばれます。系外惑星とだけいうと「銀河系の外の惑星ですね」と思われることがありますが、ここでいう系外とはあくまでも太陽系外の略であり、これまでに見つかったほとんど全ての系外惑星は銀河系内(=天の川銀河内)にあります。一方で「同じ銀河系の中ならどうしてもっと近づいて調べないのか」といった質問をいただいたこともありますが、銀河系内の恒星同士ですらお互い非常に離れており、まだ現時点の人類の技術ではとても行き来できません。系外惑星の遠さと近さを実感するために、私たちがイメージできるサイズにスケールダウンして考えてみましょう。

例えば地球(半径6400km)が、クリスマスケーキを飾る半径1mmのアラザンだったとしたら。地球から1億5千万km離れた半径70万kmの太陽は、アラザンからテニスコート縦1個分離れた場所にあるサッカーボールといったところです。太陽系から最も近い系外惑星 Proxima Centauri b までの距離は4.2光年(4e13km)ですので、先ほどのアラザンからの距離は、東京―ホノルル間ほど(6200km)になります。地球と太陽との距離に比べて、地球から系外惑星までの距離が如何に大きいかを実感いただけますでしょうか。私たちは東京のテニスコートの片隅でアラザンの表面を生きながら、ホノルルより遠い場所にばらまかれた他のアラザンを探しているのです。

一方で、2021年末現在までに4500個以上の系外惑星が発見確認されていますが、実はそれらのほとんどは銀河系内も銀河系内、銀河系全体でみれば、地球からかなり近いところにあります。先ほどの例えでは、お隣の系外惑星までだけで世界地図が必要なサイズまで来てしまったので、今度は、我々の太陽系が所属する銀河系の円盤部分の半径約5万光年を、東京から地球の裏側までの距離(地球半周分、約2万km)として考えてみましょう。するとケプラーが検出した惑星の中で最も遠い部類までの距離(3000光年; 今人類が知る系外惑星の9割以上がこれより近い)でも、青森―福岡間くらいの距離(1200km)に収まってしまいます。そして、先ほど紹介したお隣の Proxima Centauri b まで(4.2光年)は、東京駅から霞ヶ関、または関西でいうと梅田駅から淀川の対岸(1.7km)ほどしかありません。この縮尺でいくと、太陽―地球間は6mmとなり、今度はいよいよ小さすぎてイメージできなくなってくるので、これくらいにしておきましょう。 

ちなみに私自身が参加している系外惑星探査計画(ハワイのすばる望遠鏡の近赤外高分散分光器IRDを用いたサーベイ)がターゲットとする天体は、ほとんど全てが80光年以内にあります。これは先ほどの例えで表すと東京―立川、もしくは大阪―神戸くらいの距離(32km)に相当します。 銀河系が地球全体に広がるサイズだとしたら、我々が惑星を詳しく調べられている範囲はまだ、 在来線で通勤できるほどの距離なのです。 普段そんなご近所の星ばかりを相手にしていて、銀河系内におけるその距離感を気にかけていませんでしたが、私たちはまだまだ井の中の蛙なのかもしれません。 

まず地球から太陽、そして太陽系外惑星へ、次は銀河系全体から系外惑星、そして太陽と地球まで、それらの距離感を二通りのたとえで考えてみました。こうしてみると、その距離は意外と大きいような、案外小さいような、不思議な感覚を覚え、私自身、宇宙のスケールの大きさと幅広さを改めて実感しました。 直感では捉えきれないものを扱う楽しさを共有していただけたなら幸いです。 暖かなクリスマスと、素敵な新年をお迎えください。 

執筆者紹介

執筆:たこ 

Twitter : https://twitter.com/chonma0ctopus

この記事は Astro Advent Calendarの企画記事です

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