【Astro Advent Calendar12/7】ひびわれ、時々宇宙(うえむ)

太陽系

皆さん!「ひびわれ」はお好きですか?私は大好きです。

「天文学のブログでひびわれ!?」と思われる方もいるとは思いますが、ひびわれと宇宙は関係ないと言えなくもないこともないですし、是非ひびわれの魅力について知っていただければと思います。

ひびわれと言うとどんなものを思い浮かべるでしょうか?

まずは、私のスマホの写真フォルダから、お気に入りのひびわれ画像と共に身近なひびわれを振り返ってみましょう。

まず、道端にできた泥のひびわれ。

これは、私のひびわれコレクションの中でも一番のお気に入りです。野辺山宇宙電波観測所に行った時に、近くの道路で見つけました。これを見て、何か気付くことはありませんか?

左上から右下にかけて、ひびわれが小さくなっています。ひびわれというと、予測不能で規則性もないという印象を持っている人も多いかと思いますが、実はそんなことはありません。

ひびわれの欠片の大きさは、主に流体(ここでは泥水)の厚さに依存します。分厚いところでは大きな破片が、薄いところでは小さな破片ができるという規則性があるんです。この画像だけでは分かりづらいですが、ここは道路の端っこで少し道が斜めになっている場所でした。なので、場所によって厚さが変わり、出来上がる亀裂も場所ごとに大きさが違います。

ひびわれの規則性が綺麗に現れている、芸術性の高い一枚でした。

そして、次は食器に入ったひびわれ。

美味しいご飯を食べたときの湯呑みです。

塗料が収縮する時にひびわれるそうです。ひびわれそのものが芸術の価値を高めている好例ですね。ただでさえ可愛い湯呑みが、さらに可愛くなっちゃってます。飲み物も美味しくなりますね。やはり、ひびわれは芸術です。

最後に、マグマのひびわれ。

柱状節理と呼ばれる地形です。刑事ドラマなんかで犯人が追い詰められる、東尋坊なんかが有名ですね。柱状節理は、マグマが冷える時に収縮することで作られる地形です。等方的に収縮するため、このような綺麗な六角形になります(もちろん、多少形が崩れているものも存在します)。

手っ取り早く柱状節理を見たい方は、ディズニーシーに行ってみてください。本物と遜色ない、迫力ある柱状節理が楽しめますよ。

ディズニーシーに行きたいけど、最近チケット取れないんだよな〜〜〜という方!実は、自宅で簡単に柱状節理が作れちゃいます。

作り方は簡単!コーンスターチ(片栗粉でもOK)と水を混ぜて放置するだけ。マグマは冷却によって収縮しますが、コーンスターチペーストが乾燥によって収縮します。そうすると、こんなきれいな柱状のひびわれができるんです。

Lucas et al., 2006より

本物の柱状節理にそっくりですね。

実際に、このようなアナログ実験を通して、柱状節理の形成について研究している人もいます。

いかがでしょうか?ひびわれが身近にあること、学術的にも芸術的にも多様な楽しみ方ができることをお分かりいただけたかと思います。

では、制御不能に見えるこのひびわれを、制御する方法があるのをご存知でしょうか?

Nakahara et al., 2005より

この画像のように、特定の方向に伸びるひびわれを作ることができます。使っているのは炭酸カルシウム(チョークに使われていたりしますね)と水とを混ぜた「どろっとした」流体です。何もせずにただ乾燥させると、ランダムなひびわれができます。この写真にあるひびわれは、乾燥の前に「揺らす」という動作を加えています。(a)の場合は円周方向に、(b)の場合は画像上で上下に揺らしています。揺らした方向に対して垂直にひびわれている、ということになります。

「どろっとした」流体というのが重要で、こういった流体は「塑性」という、自分の形を維持する性質を持っています。水は塑性がないので、何かの容器に入れないと形を維持できませんよね。粘土なんかは塑性があるので、自分だけで形を維持することができます。

ペーストは揺らされることで、内部に異方性のある構造が作られます。その時、塑性があるとその構造を維持することができ、亀裂が入る際にその構造に沿ったひびわれができます。

これだけ聞くとすごく単純な現象のように聞こえるかもしれませんが、まだまだわからないことのほうが多いです。

この現象が見られる粉と見られない粉があります。粉によっては、水の割合が多い条件では、揺らした方向に対して並行に亀裂が入るようになります。実は、どのような条件で、どうしてこの現象が現れるのか、完全にはわかっていないのが現状です。

単純そうなのに、意外とよくわかっていない、そんなミステリアスなところもひびわれの魅力の一つです。

本当は火星の地形の話もするつもりだったのですが、つい大好きなひびわれを語りすぎてしまいました。一応、天文学に関する記事、ということなので、最後に火星のひびわれについて、簡単に紹介して締めようと思います。

Ulrich et al., 2011より

このひびわれは、氷が昇華しする時にできたとも言われています。地球では、なかなか見られないタイプのひびわれ形成ですね。氷や水なんかとも関係する現象ですので、火星の生命について考える上でも重要な役割を果たしてくれそうです。

どうでしょう?ひびわれも、宇宙に関係ないと言えなくもなくもないですよね?私は、宇宙に関する研究の、裾野の広さが好きです。「宇宙は大きな実験室」と誰かが言ったのを聞いたことがあるのですが、本当にその通りだと思います。

いつか私は、火星のひびわれについてもどうやってできたのか、どんな規則性があるのか、もっと詳しく知りたいです。地球ですらわからないことがたくさんあるのだから、そこにはきっと面白い科学がたくさん詰まっているはず。何十年かかるかわからない、私のささやかな野望を記して、ここで筆を置きたいと思います。

執筆者紹介

執筆:うえむ

この記事はAstro Advent Calendar 2021の企画記事です。

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